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真っ白でいるよりも。
気持ちというものにもしも色があるのなら、
真っ白でいるよりもあなたの色に染まりたい、という詩は誰の作だっただろうか。
ぼんやりとそんなことを考えたアムロは、こつんと額を外気に面した硝子の窓に押し当てた。
地球に帰還してから、もう半年以上が過ぎようとしている。
ふと気付くと、季節はまた、次の春へ向けての準備をしようという過渡期へと移行しつつあった。
はぁ、とつく溜息がひやりと冷たい窓硝子にかかって曇らせる。
子供みたいだなとは思いながらも、
何度もそれを繰り返して白い曇り硝子のキャンバスを作り上げ、そっと人差し指を当てる。
揮毫すると後は迷わなかった。
一気に描き上がったものの出来に満足して、その後で窓の掛け金を外す。
外に向かって開く窓を一瞬の躊躇いの後に全開にすると、
丁度こちらに向かって歩いてくるところであったらしい男が庭の中に立ち止まって苦笑していた。
「……できれば、そういうものは言葉で言ってくれないか?」
「言ったところで分かっちゃくれない癖に。」
言葉と共に吐き出される呼気の煙のような白さと
外気に見る見る赤くなる頬を気にしながら憎まれ口を叩くと、
すっと男の優美な指先を備えた手が伸びた。
「―――…真っ赤だぞ。」
「あなた色なんだよ。」
冷たくなって、と頬に触れてくる、
手袋に包まれてコートのポケットにでも入っていたらしい掌の
僅かな温もりに頬を擦りつけながら、アムロは目を閉じる。
男が笑った。
「それでは、家の中に入ってから、
君の口からそこの窓硝子に描かれたラブレターの意味をとっくり聞こうじゃないか。」
さ、窓を閉めて、と促され、アムロは名残惜しく離れてゆく指先の感触を肌で追う。
玄関に出迎えに行こうと窓を閉めると、凍てついた空気と混じり合って、
くっきりと指で描いた筈のハートの図形はもう周囲の白さに溶け込んで輪郭も曖昧になっていた。
仕方がない、人恋しい季節が始まるから、と苦笑して、
がちゃりと開く玄関のドアの音に慌てて駆け出す。
今からもっと寒くなる、そんな季節に生まれたのだから。
他人を受け容れることに臆病だった自分が、
新雪が溶けるように少しずつ変化するのも仕方がないのだと思う。
こんな自分に色を付けて欲しいと願う。
冷ややかな雪のように、真っ白でいるよりも。
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...end.
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