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ーーーーーーHAPPY BIRTHDAY, Lyle Dylandy !!
「んだってんだ、世界中の兄貴みたいな面しやがって!!」
確か、喧嘩の最後はいつもそういった捨て台詞だった気がする。正確には、喧嘩ではない。ライルが一方的に腹を立てていただけだ。
世界中全ての常識とか正しいことの代弁者のような顔をしているのが堪らなく苛立たしかった。
本当は兄こそがもっとも人間として未完成だった癖に。
ほんの少しばかり自分より先に光の中へ、世界へ出たからといって、その何が偉いというのだ。
年功序列など、先に生まれたやつがらが自分たちが後の人間を支配しやすいように作ったシステムに違いない。
ぼやくと、級友には僻むなよ、と言われた。
誰が僻んでいるというのだ。
成績優秀で、スポーツ万能で、みんなの人気者で、でも上級の学校へは進学しなかったニール。
ライルが家を出て寄宿舎のある学校に入りたいと言ったのを聞いていたからだ。
それほど裕福な家庭ではない。双子の両方を同じ学校にやれるほどの金銭的余裕はなかった。
(俺は大丈夫だよ、父さん、母さん。ライルのやりたいようにやらせてやって)
そんなことをほざいてあっさりと奨学金を決めてきて、ライルはますます兄が嫌いになった。ライルの我が儘も無理もどうして許容するのだ。
しかも、オマエのためだなんて。実の親だってあんな風には言わなかった。
ライルを叱ったり窘めたりするのは、結局は自分の為だろう。やんちゃな弟をちゃんと守るお兄さんの役がやりたいだけの癖に。
(あんたには、何もかも振り捨てても欲しいものとか、ないのかよ)
ライルにとっては、それはライル自身のアイデンティティだった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
ソレスタルビーイングに誘われたときに、それなのにどうして刹那という青年に着いていく気になったのか。
この世で最も嫌いなのは兄と比べられることだったのに、その兄の気配が最も濃厚な場所へ、なぜ。
自問自答への答えはあっさりしたものだった。
(そんなもん、あの兄さんが一体どんな偽善者ヅラして世界の平和とやらを守っていたのかをこの目で見たかったからだ)
だから自分は心まではこの組織に預けないと決めて、カタロンに籍を置いたままで身を投じた。
ソレスタルビーイングだけのロックオン・ストラトスではない。
そこで兄の生きた足跡を見る度に、そこかしこに気配を感じる度に。……腹の底で怒りが込み上げる。
(だから、どうしてあんたは最期まで世界中の兄貴なんだよ)
ティエリアの、刹那の、フェルトの語る面影を総合すれば分かる。あの男は全く何も変わっていない。
独善的で、支配的で、我が儘だ。
自分にできないことを、否、やりたくないことを他人に押しつける。
他人の言うことに耳なんか貸さない癖に、他人の人生には関わりたがる。
それこそが未熟と言わずしてなんと表現すれば良いのだ。
人には変われという癖に、自分は変われないと自嘲する。バカを言え、変わる気などないのだ、これっぽっちも。
自分をよく見せるのだけが得意で、仮面を外さない。
フェルトと兄が男女の仲になどなっていないことなどすぐに知れた。ああいう、少女特有の思慕を向けられるのは大好きだったはずだ。
(ああ見えて年増好みなんだよ、うちの兄貴ってな)
いやらしい、と顔を顰める。乳臭い小娘に手を出すことはないだろうし、もし出したのならそれは本気だ。
きっと、恋愛ごとにもあの独善的な支配性を持ち込んで相手に煙たがられるのだろうと手に取るように分かる。
そう思ったライルはつい思って居たことを口に出してしまった。
「あの兄さんのへらへらした仮面を引っぺがした女ってのがもしもいるなら、是非お目に掛かりたいよ」
ぼやくと、聞いていた刹那はやや複雑そうな表情で、女とは限らないと呟いた。
「……へ?」
きょとんとしたライルに、刹那はぼそぼそと珍しく歯切れの悪い調子で告げた。
「お前の兄が復讐でも戦いのためでも何でもなく、取り乱した所を見たのは、後にも先にも一度だけだ」
でもまああいつの気持ちは俺も分からないでもない、それ以上は訊くな、と言った刹那自身が鉛を呑み込んだような表情だったので、ライルはとうとうそれ以上の追求をする機会を失って仕舞ったのだった。
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