未来の破片-The Insanity of War-




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【3】ドリーム・アゲイン



 その日のうちにティエリアとスメラギにブリーフィングルームに呼び出されたグラハムは、二人から聞かされた話に流石に眉を顰めた。

「……そうか」

 話してくれて感謝する、とグラハムは言ったが、スメラギは厳しい表情のままで続けた。

「軍としては見過ごすわけには行かないでしょうから、理由を付けて引き上げるも良し、それとも……」
「このグラハム・エーカーを見くびらないで貰おう」

 考え込む素振りをしていたグラハムが顔を上げ、はっきりした声で言った。

「預けられた信頼には信頼で返させて頂く。見ない振りでご都合主義でやり過ごすなど、私の矜恃に合わん」

 つまり、こんな面白そうな話、当然混ざりたいということらしい。刹那の読み通りだ。流石に少し呆れた顔をして、スメラギが尋ねる。

「では、どうします?」
「知れたこと。……ただし、私も貴方たちに隠し事はしないと約束する」

 返事は曖昧に濁し、さて、と言ってグラハムは立ち上がり、机に手をついて口を開いた。翠の瞳がとびきりの悪戯を思いついた子供のように煌めいている。

「……いい作戦があるが、一口乗らないか、戦術予報士殿。私は編隊程度の立案はお手の物だが、それ以上となると助言が欲しい」

 問われて、スメラギは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐににっこりと極上の笑顔で微笑む。

「分かりました、聞かせて下さい」

 同じようにグラハムも笑顔を返した。

「聡明な女性は好ましいな、流石ビリーが執着するだけのことはある」
「でも、身持ちは堅い方ですのよ?」

 さあ、作戦を練りましょうと嬉しそうに言い出すスメラギに、ティエリアは軽く肩を竦め、僕も手伝いますと言って座り直したのだった。



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 数日後、暗号通信で届いた内容を手に、スメラギが全員をブリーフィングルームに集める。無論、出向組とおまけも含めてだった。

 全員の顔を確認して、スメラギは高らかな声で告げる。

「私達ソレスタルビーイングは、明日午後イチヨンフタマルを持って、AEU領内、ダカールにおいて、武力テロ組織の全貌を解明、後必要あらば殲滅の為のミッションに入ります」

 え、とビリーが驚いたように顔を上げるが、隣に座ったグラハムは涼しい顔のままだった。

 ねえグラハム、僕達、これに巻き込まれたら拙いんじゃないの、と小声で囁いても眉も上げない。

「……ちょっと、スメラギさん」

 それ、拙いんじゃないですか、とソレスタルビーイング側でもアレルヤが声を上げた。無論、グラハム達の方を見ることはできない。

「どうしてかしら?」
「だって、……僕達は……」

 抑止力として在る間だけならば表立っての対立はなく、特使を派遣されるくらいの存在になっているとしても、一度武力介入を始めると、ソレスタルビーイングは人類の敵になってしまう。連邦軍だって出てくるはずだ。まあ、今回は相手が連邦軍ではないのだが。

「そのことで、ここに連邦軍AEU方面師団長、カティ・マネキン准将よりの書簡があります。連邦軍としては、本日付をもって当該国周囲の連邦軍を引き上げて、隣国へ後退させると」
「……? つまり?」

 どういうことだ、と問いかけるライルに、刹那が静かに言った。

「俺たちの武力介入に嘴は挟まないが、積極的な関与もしないということだ」

 つまりは、連邦軍は今回のソレスタルビーイングの行動を黙認するということだ。有り難いと言えば有り難いな、と言いながら、刹那の視線が黙ったままのグラハムを捕らえる。恐らくはこの金髪の士官が何か裏工作をしたに違いない。

 まあ、刹那が知らないだけで実際は裏工作ではなく堂々と申し出をしたとも言うのだが。

「現在、連邦軍はまだ戦力が以前の七割までしか快復していないからな。細かいところまでは到底手が回らんよ」

 静かにグラハムが言った。先般のELSとの戦闘で、連邦軍は致命的とも言える大損害を兵力に被っており、今はまだ体力の回復がやっとの状態であることはグラハムも良く知っている。……別に裏工作をしなくとも、本気でソレスタルビーイングと対峙する余力など何処にもない筈だった。まあ、敢えてそんな内情は言わなかったが。

 グラハムは軍幹部と直接対話をするような立場にはないので情報を見聞きしたわけでは無いが、何となく肌で感じる空気というものがある。

 単にバクチに出てまぐれ当たりした、と言えなくもないが。

 なんだかんだで武器関連の御用聞きが中心のビリーはその事を知っているが、積極的にグラハムの軍での任務にはノータッチであろうとするニールは知らない。なので、漏れる心配はない。

 グラハムはただ、ここいらでソレスタルビーイングに貸しを作るのも悪くはないのでは、と進言しただけだった。

 スメラギが続きを読むわね、と口を開いて、ある意味最もショッキングな書簡の残りの部分を読み上げる。

「尚、出向中のエーカー少佐については一時的に連邦軍からのライセンスを付与するので、約一ヶ月の行動については不問、カタギリ顧問についても同様の待遇を与えると」

 うっそお、と思わずビリーは呟いていた。その横で、グラハムは満足そうに頷く。

「まあ、大凡こちらの思い通りだな。流石、マネキン准将は切れ者だ」

 しゃあしゃあとそんな感想を述べるグラハムの隣で、また何をやらかしてくれたのさ、とビリーが深いため息をつく。

「ねえ、あれ? 僕また君の正体隠すようなモビルスーツ作らされるとか偽装させられるとかそういう?」
「外聞の悪い、隠したことなどないぞ」

 なあ少年、と話を振られて、刹那は綺麗に聞こえなかったことにした。あのスサノオとかマスラオとかいう黒い機体の話はしたくない。絶対にだ。

 その時、項垂れていたビリーが何かに気付いたように顔を上げた。

「ブレイヴ持ってきてたよね、確か」
「ああ」

 頷くグラハムを見て、がたり、とビリーが切羽詰まった表情で拳を握り、腰を上げる。

「僕ちょっと、パーソナルマークと隊長機の印取っ払ってくる」
「……どういう意味だね!」
「あと身元不明機の偽装……あーもう使ってないガンダムの頭とか借りちゃおうかな」
「「止めてくれ!」」

 グラハムと刹那が別々の意味ながら同時に叫んだのは言うまでもない。頭だけがガンダムなどと、それは一体何のホラーだ。

「なあ、ライセンスって何?」

 その時、何気なしにニールが聞いた。あっバカロックオン、と皆が止めるより早く、グラハムが、事も無げに説明を端折る。

「独立行動の免許のようなものだ」
「……つまり?」
「私は今から一ヶ月、どこで何をして誰の味方をしようが、私個人の判断で行動を起こして構わないということだ」

 なんだその危険な許可、と言いかけて、それを全て受け止めるのがソレスタルビーイングだと気付いたニールの顔色が真っ青になる。

 冗談ではない。軍隊の頸城を外れたグラハム・エーカーなど、野生の虎の放し飼いだ。

「軍隊でそんなのありなのか!?」

 実は怪我の影響やらなにやらで、グラハムのミスター・ブシドー時代を丸々知らないニールが言うのに、グラハムは不思議そうに首を傾げる。

「私はアロウズ時代もライセンス持ちだったが?」

 ちなみに、ライセンスを持っているのはグラハムの他はイノベイドばかりだった。只の人間の身分で破格の待遇ではある。幸か不幸か、ソレスタルビーイングの誰もそんなことは知らなかったが。

「マジかよ、それで大丈夫だったのかアロウズ」

 ニールの疑問には、ビリーが低い声で答えた。

「いや、大丈夫じゃなかったねえ……。なんていうか、グラハム、君さあ、縁故も係累も閨閥も持ってないのに、なんでそんな要求通ってるの?」

 うちの叔父ももう居ないし、むしろ僕わかんないよ、意味不明だよ、不条理だ、アンビリーバボーだ、とビリーが頭を掻き毟る。連邦軍はグラハム・エーカーに甘すぎると思うんだよね、と言いたい放題だ。

 しかし、当のグラハムはそんなビリーの言葉に何の痛痒も感じていないようだった。

「決まっている、私の誠実かつ真摯なる態度が上官達の心を打つのだ!」

 高らかに叫ぶグラハムの声を聞いて脳量子波に何か訴えかけるものがあったのか、マリーが額を抑えて覚えがあるわ、この感覚、と呟いた。

「アロウズの頃……そう、確か、ミスター……」
「お嬢さん、その名をこの場で呼ぶのは控えて頂こう」

 ぼそっと呟いたマリーの言葉を素早く遮り、グラハムは続けた。

「そういう訳で、君たちは私の事など構わずに作戦行動に入るがいい。私は私で勝手にさせて頂く」

 しん、と水を打ったように静まりかえる部屋の中、真っ先に我に返ったのはやはり普段からグラハム慣れしているニールだった。

「……お前、相変わらず無茶苦茶だな!」
「道理など、私の無理でどうとでもなる!」
「どうにもすんな!」

 迷惑だ、宇宙の迷惑だ、まずお前を駆逐しなきゃならんだろ、と喚くニールの腕を掴んで、グラハムはそれでは部外者は失礼する、と言って目眩がするとぼやくビリーを促してブリーフィングルームを後にした。















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+++END

 

 

ええっと、グラハム・エーカー、トランザム中につき注意。
グラハムさん士官学校出てるんですかね。出てなかったら少佐ってすごいと思うんですが。
叩き上げだと大尉で終わりですもんな。
士官学校あがりで少尉さんからでも、たたき上げで大出世して少佐でも萌えます。もれなく。
生涯一軍人って感じでござるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

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