ice, cream, bluesoda




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「こちらを」

 ことり、と音を立てて前に置かれた深いブルーのカクテルに、金髪の男は目を見開いた。

「いや、私は……」
「俺のおごりだよ」

 注文していないと言おうとした瞬間に、背後から少し甘さを感じさせる声がかけられる。振り返ると、長身の鳶色の髪の毛をした男が、にっこりと人好きのする笑みを浮かべて立っていた。

「……?」

 首を傾げるグラハムの隣に、自分は琥珀色の強そうな酒のグラスを手にした男が断りも無く座り、顔を覗き込んでくる。

「それ、『孤高』って名前のカクテルなんだ。……あんたの背中を見ていて、そう思ってね」

 乾杯、と勝手にグラスをぶつけてくる男に半ば呆れつつ、断るのも申し訳ないとグラハムはカクテルを手にした。

「孤高の空、か……」

 こんな色は、一人きりで飛んでいるときにもよく見る。確かに孤高かもしれないなと感心していると、隣の男が明るい声を上げた。

「おっ、詩人だね、気に入った。……な、名前教えてくれよ。俺はロックオン。ロックオン・ストラトス」
「……」

 大気圏をも、その照準に。……大した大言壮語だ。

 聞くからに偽名じゃないか、と半ば呆れつつ、グラハムはそうだな、と呟いた。

「私の名前は、そうだな、アルーフ・スカイウォーカーとでも呼んで貰おうか」
「なんだよ、スターウォーズかよ」

 苦笑する鳶色の髪の男は、古い映画などにも詳しそうだった。それで機嫌が微かに上向いたグラハムは、改めて、ともう一度ロックオンと名乗った男のグラスにカクテルを当てる。

「訂正する。是非、グラハム、と呼んでくれ」

 今度は本当の名前を提示する。なんだよ、と男は癖のある鳶色の髪の毛を揺らす。

「愛称がグラハム?」

 あんたなかなか愉快な男だな、思った通りと笑うロックオンに、カクテルに少しずつ口を付けながらグラハムは訪ねた。

「何故私だ? 周囲を見たまえ、美しいご婦人方が皆、君を見ている」

 にい、と口角を上げるロックオンの笑みが深くなる。

「そのご婦人方の殆どの目当てはあんただと思うけどな、グラハム」
「もしかして弾避けかい? ならば、この一杯くらいは付き合わせて頂こうではないか」

 モビルスーツに搭乗時は背後から近づく敵機影にさえ気付くくせに、女性からの秋波になど微塵も興味のない金髪の男は真っ正直にそうロックオンに答えた。

 ロックオンがますます愉快だよな、と笑い声を上げる。

「弾避け、ねえ。あんた面白い男だって言われるだろ」
「面白味がないとは、言われるがね」

 肩を竦めるグラハムに、ロックオンは耐えきれないように笑い出した。その後で、バーテンダーを呼んでバニラアイスを持ってこさせる。

「?」

 不思議そうな顔をしたグラハムの前で、ロックオンは革手袋をはめたままの手で、真っ白なアイスを一匙掬い取った。

「そのカクテルに入れたらどうだ。あんた、そのくらいには甘いと俺は思ったね」

 ほれ、と銀色のスプーンで一口を勧めてくる男に、グラハムは翠の双眸を瞬かせる。

「……まるで、君のようだ」

 呟かれ、ロックオンは僅かに顔を顰めた。

「おいおい、子供の飲みもんじゃねーか」
「甘い口当たりに騙されると、悪酔いしそうだと思ってね」

 からん、とグラハムの前のカクテルの氷が音を立てた。ロックオンは黙ったまま、笑顔を崩さずにこちらを見ている。

 グラハムは重そうにも思える黄金色の睫を微かに伏せて顔を近づけ、差し出されたスプーンからアイスクリームを直に口で受け取った。

 赤い舌が一瞬だけ扇情的に閃く。吸い込まれるように、ロックオンの視線が己の口元に引き寄せられるのは分かっていた。

 ぺろりと口の端を舐めると、ぞくりとしたように微かに手の先が震えている。

「君を前にすると、銀の匙を咥えて生まれて来たかのごとき錯覚を起こしそうだな」
「はは、……どっちが口説いてんだ?」

 それ一杯全部飲みきったら二人でどこかに消えようぜ、と耳元で囁かれて、グラハムは了承の証に瞬きをしてみせたのだった。

 お互い、慣れないことをしているのは分かっていた、つもりだった。

 この火遊びの先が行き着く場所も知らないまま、退くつもりだけがないのが分かるのが、いっそ滑稽にも思えた。













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+++END

 

 

某水上さんが(伏せてない)
ヴェーダから受信したクリームソーダのプランをどうにかしようとしたんです孤高のグラハム。

それがどうしてこうなった。万死!

 

 

 

 

 

 

 

 

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