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「ね、こっち向いて。」
「…。」
白金の少年は軽く溜息をつき、膝の上の魔法書を閉じて最近用もないのに絡んでくる獅子寮の少年を見上げる。
「今度はなんの用だ、ハリー・ポッター。」
「つれないなぁドラコ。」
苦笑いを浮かべながらハリーがどっこいしょ、と隣に腰を下ろした。なんだ邪魔だな、とにじって避けるドラコにあ、酷いつれないと後を追う。
「…嫌がらせか?」
「まさか。最近コミュニケーションとスキンシップが足りないなって思って。」
「そんなものいらないだろう、僕とお前の間に。」
ふんと精々虚勢を張って言ってやるのだが、獅子寮の英雄は気に留める気配もない。
「必要だよ。折角咲いた恋の花もちゃんとお水と栄養あげなきゃ枯れちゃうでしょ?」
「…お前、グリフィンドールで遂に脳幹までイカレたのか?どこにそんな幻覚が見える。」
「うわ。…今のでちょっと花揺らいだかも。」
「根から引き抜いてしまえ。」
「ひどーい。」
けらけらと笑いながらそうダメージを受けた風でもないハリーにドラコが諦めたような溜息をつく。結局の所このなし崩しのペースに巻き込まれ続けていつの間にやら不本意なことにハリーと自分は所謂「公認のロミオとジュリエット」らしい。
最もドラコに言わせればパリス常時大募集中ということらしいが(自分がジュリエットなのはもう諦めたらしい)。
ハリーに一人勝手に喋らせて置いて自分は木漏れ日の差す頭上を見上げる。他人に干渉されるのを嫌うドラコにとって、自分勝手なペースを貫くとはいえ相手をしなくても側にいて一頻りしゃべり立てて帰っていくだけのハリーとの関係はそう不快過ぎるというものでもない。そう思うこと自体この黒髪の少年の手なのかもしれないけれども。
麗らかな日光、ドラコの白磁の肌とアイスブルーの瞳には強すぎる自然の直射光に目を瞬かせながらドラコはふと悪戯を思いついた。
いつも驚かされてばかりなのだ、たまにはいいだろう。
「…ドラコ?」
一人変わらずドラコへの熱い思いの丈を喋り続けていたハリーが、目の前に差した影に驚いて言葉を止める。至近距離まで顔を近づけ、ドラコは婉然と微笑んだ。
「ポッター、折角の陽気だ。無粋な言葉は止めろ。…目を閉じて。」
囁くように耳元で言えば、驚愕しながらも驚きで思考回路が止まってしまったのか案外素直に瞳を閉ざす。黒曜石が長い睫毛の下に隠れたのを見ると、ドラコは手を伸ばして邪魔な丸い眼鏡を外し。
ゆっくりと、ハリーの額に口付けを落とした。
「…なんだ?唇に来るかとでも思ったか?」
ぱちっと目を開けたハリーに眼鏡をかけ直してやりながらニヤリと口角を吊り上げて皮肉っぽくドラコが嘲笑う。
「残念だがそれは期待のしすぎだ、ポッタ…。」
「眉間ってさ、人体急所なんだ。」
嬉しげに滔々と嫌味をまくし立てようとしたドラコに向かってハリーがぽつりと呟く。ドラコが理解できないとでもいうように首を傾げた。
「…?突然何を言い出すんだ、ポッター。陽気でとうとうイカレきったか?」
しかし、ハリーはそんなドラコの言葉には反応せず何故か満面の笑顔を浮かべる。
「おまけにね、僕にはそこに傷もある。」
益々ドラコの頭の上に盛大にクエスチョンマークが散った。まさかこいつ、僕にキスをされた所為で魔法が解けて元のキ印に戻ったのか、などとかなり失礼なことを考えながらそれでも生真面目な性格が災いして律儀に問いかける。
「だから…どうして?」
ハリーは微笑みながらきっぱりと言い放つ。
「わかんない?人体急所の傷のある欠けた場所にキスされたんだもん、好きに成らずにはいられないよ。」
―――僕ちょっとかなり本気になっちゃったからね、覚悟してね?
にっこりとある意味渋面や怒りの表情より怖い真っ白な笑顔で宣言されて、日中にも関わらず目の前がブラックアウトしていくのを感じたどこまでも墓穴掘り下げボーリング工事受注中のドラコ・マルフォイであった。
こんな陽気の日には、ちょっと浮かれた悪戯もしてみたくなるということで。
「…なんて、宣言するタイミング計っていただけなんだけどね。」
英雄の独り言は、幸いなことに蛇姫の耳には届かなかった。
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end.
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