SLIPPED AWAY

-嫌いになるのは簡単-



**********



 目が覚めるともうどこにも彼は居なかった。

 俺に黙ってそっと姿を消してしまった。


:*+*+*:
I miss you
I miss you
I miss you so bad
I don't forget you
Oh it's so sad
:*+*+*:



 予感はしていたけど覚悟は出来ていなかった。

 俺は多分すこし泣いたんだと思う。

 泣いて、泣き続けて、そして疲れて寝たんだと思う。

 多分その夢の中であなたに会ってまた少し泣いたんだ。

 けれどそれは悲しい涙じゃなかった。

 夢が現実になればいいのに。

 現実が夢になればいいのに。

 起きるとやっぱりベッドの中にも家の中にもあなたの姿はなくて

 仕方がないから俺はもう一度泣くことにしたんだ。

 毎日そんなことを繰り返し繰り替えししているうちに、俺は涙の流し方を忘れてしまった。

 泣けば帰ってきてくれるという甘い幻想も捨ててしまった。

 次に浮かんできた感情はお決まりのものだった。

 ほらあれだ。…怒りってやつだ。

 強盗にでも荒らされたように家の中を滅茶苦茶にするまで暴れ回った。

 最後にあなたが置いていった僅かばかりの衣類と叩き割ったマグカップをダストボックスに突っ込んで。

 俺は二人で暮らしていたマンションの鍵もそのまま通りすがりのゴミ箱に突っ込んだんだ。

 何もかも捨てちまうつもりだった。

 そのままその足で兵役登録所に行った。

 自棄のようにカウンターに乗り出して言った。

 モビルスーツのパイロット一人、いりませんか。

 生活に困ればとりあえず軍隊に入れば必要なものも家も支給されるのは誰よりもよく知っていた。

 係員のお姉さんは事務的な口調でそれでは誓約書にサインをして、ここに市民IDカードをお通し下さいと一枚の紙ぺらと端末を差し出した。

 俺の名前はアムロ・レイ。さらさらと胸にさしたペンでサインをして、その後でその純銀のえらく高価そうなペンがあなたのものであることに気付いてそのままカウンターに放置した。

 たぶん誰かが持っていくだろう。

 笑えることになんと俺の連邦軍籍は生きていた。

 階級も大尉のままで、受付のお姉さんに悪ふざけと冗談は感心しませんよレイ大尉、と怒られた。

 とっくになくしたと思っていたのに。

 ああ、とっくになくしたと思っていたのに生きていたよ。

 そんなものに突然ぶつかって、振り回されて。

 兵役登録所の建物を出て、さてこれからどうしようかと空を見ながら考えた。

 途方に暮れていた。行くところが無くて。

 あなただけでいいと思っていたから、他に居場所なんて作らなかったよ。

 まさか居なくなるなんて、俺を置いていなくなるなんて微塵も思っていなかったんだ。

 消えるくらいなら攫われたかった。

 仕方がないからもの凄く久々に、携帯用の端末コンピューターのアドレスファイルを開いたんだ。

 何年ぶりだろうかなんて思えるほどだった。

 女の所に転がり込むのは格好悪かったから、男から探したんだ。

 な、俺、ずっとあんたの名前さえ思い出すことがなかった、ブライト。

 名前を見つけて、俺はあの日から初めてくすりと小さく笑ったんだ。

 ノア家のフォーンナンバーを確認して、俺はアナログに声を届けられる電話を設置しているボックスを探そうと腰を上げた。

 うん、と伸びをして空を見上げた。

 地球の空の色は相変わらず汚染されきった雲で澱んでいて、こんなものを毎日見せていたからあの人は出ていったのかと少し思った。

 宇宙にもう一度出ていってみようか。

 そしたら、あなたはどんな悔しそうな顔をするだろうか。俺を置いていくしかなかったあの人は。

 思いついて、俺はふとあの人の瞳のような綺麗なコバルトブルーの宇宙から見る地球を、久しく見ていないことを思い出した。

 地球の代わりに俺にはあの人が居たから。

『ちょっと地球を見に、広大なあの宇宙へ。』

 あれだけ拒んでいた帰還の理由がそれだと知ったらあなたは激怒するだろう。

……面白いじゃないか。

 ひとしきり怒ったあなたの首に腕を回して軽くキスをして、何もなかったように俺はこう言うんだ。

 ええと。

 なんだっけ。映画なんかでよくやるやつだ。…そう。

―――"I miss you."

 一言でいい、一言で決めなきゃ決め台詞とは言わない。

 考えながらくすくす笑っているうちに、俺は泣いていたことも怒っていたこともすっかり忘れてしまっていた。

 もう一度あなたに会ってこんな話ができると思っていること自体イカれているが。まともな手段じゃきっと会えやしないから。

 ネオ・ジオンで『モビルスーツのパイロット一人、いりませんか』とやったら…あなたはどんな顔をするだろう。

 さぁて。

 馬鹿なことをいつまでも考えていないで、歩き出そうか。

 とりあえずは今晩の宿を探しに。

 色々やったけど、それでもやっぱり嫌いになれないんだから、しょうがないと思うよ。

 嫌いになるのは簡単、だとか誰が言ったんだろうな、全く。


―――I didn't get around to kiss you Goodbye on the hand.


 夢が現実になればいいのに。

 現実が夢になればいいのに。

 そのくらい、やっぱり想っちゃうのはなんでなんだろう。

 なまじっか幸せだったのがいけなかったんだろうか。

 もっと不幸に慣れる訓練をしておけば良かったんだろうか。…いや、俺結構不幸慣れしてた筈なんだけれども。

 空を見上げて、地球世紀の流行歌を歌う。恋人に置いて行かれた失恋の歌だ。

 どうせならもっと浸らせて貰おうじゃないか、たっぷりと。

 心なんてどん底まで打ちのめされないと現実を認められないし浮き上がってこないんだから。


―――I wish that I could see you again, I know that I can't.


 そして俺はまたちょっと泣いた、怒った。笑った、歌った。……一人で。



 あなたが恋しいな。





:*+*+*:
Now you're gone
Now you're gone
There you go
There you go
Somewhere I can't bring you back

I miss you.
:*+*+*:






**********

end.

 

 

拍手の中でやってる連作「ふたりでいた日々」の最終話(笑)
アムロさんぶっ壊れてます(爆笑)
失恋の後の忘れ方、気持ちの切り替え方、あなたはどうしていますかー、みたいな。
ていうかうちのアムロさん、超恋愛体質ですね…ぎゃっふーん。
これじゃ辛かろうよ……恋人の方は(笑)

もしかして…逃げた???逃げました?!大尉???(汗)
しかし、昨日からパソコン立ち上げると違う話になる病気続いてます。
これもアレなんですけど。総帥とアムロさんのラブを書きたかったんですけど。(笑)
誰が壊れアムロを読みたいと言うたんじゃ、と自分で自分にツッコミ入れたいです。

 

+++ back +++