*ナサケナイオトコ* それは決戦前夜のこと。 鏡に向かって呟いてみる。 これが最後の戦いなんだってさ。 姫さんがしつこいくらいに繰り返してた。 むっちゃ実感わかねぇんだよな。悪ぃけど。 「ラストチャンス」なんて言葉、駄目なんだ。俺。 でもよぉ。でも・・・俺は。俺は、ダイは必ず勝つと疑いもなく信じてる。 全員無事で笑って帰ってこられると信じている。 はは、使徒のしるしだって光ってねぇのになぁ。 あきれちまうぜ。 だけど、誰に嫌味を言われたってこれだけはゆずらねぇ。 理屈じゃない。説明なんか上手くできねぇ。心が、そう言っているから。 信じたことは外さない。 思ったことは必ずかなう。 だって俺は魔法使い様だぜ? 立てた指先に炎が灯る。 言葉一つで奇跡を起こすのが商売だからな。 自問自答は何処までも続く。 聞いて欲しい人は分かってる。 ・・・なぁ。 ・・・・・・俺。駄目なんだ。自分の力が何なのかすら分からない。 本当は、自信なんか、無いよ。いつだって。 俺はみんなのお荷物で、ピンチにはいの一番に逃げ出すさ。 動機だって不純なんだよ・・・ちっとでも、あいつらの仲間だって胸張って言いたくってさ。 駄目な奴なんだ、俺。 そう思われてる方が楽なんだよなぁ。色々と。過剰な期待は禁物だぜ? 愚痴言いたいよ。思いっきり。 ペンダントの鎖が擦れて音をたてる。 でも、お前は自分のことで手が一杯なんだよな。 俺と同じように。 ・・・・・・ 妬けるぜ。まったく。 世話が焼けるったら。 あ。 そりゃ、俺のことか。何てったってしるしも光らねぇオチ零れだもんな。 だけど。いくら考えたって迷ったって落ち込んだって仕方がない。今日は必ず終わるものだし、今日の続きは必ず明日がやって来る。 ・・・・・・ あーあ。 謝っとくか。 アイツに当たったのは確かに俺が悪かった。 俺がアイツを好きなのとアイツの恋の相談とはそりゃぁ確かに何の関係もないもんなぁ・・・俺、アイツに何にも言ってないし。 ・・・ 今、自分で言っててちょっとへこんだけどな。 ここまで来て後腐れ悪いのも何だし・・・心残りは処分しとかないと。 手に負えないことに、俺ってバーンとの戦いよりも、この一瞬はマァムの笑顔の行方の方が気になるんだよなぁ。 あ。 何か急に不安になってきた。 俺たち、ホントに勝てるんだろうか。あの、バーンに。 ・・・・・・はは、おかしいな。 さっきまで、全然勝てる気がしてたのに。 がちがちと震える指先。かすかに歯が音をたてている。 鏡に映る不安げで頼りなげな少年はあるがままの等身大の顔。 恋も。 未来も。 目的も。 使徒である証さえ。 全部が全部、中途半端で宙ぶらりんなまんま。 ずっと何かを閉じこめている。 一つ堰を切れば何もかもが流れ出す。 溢れ出すのを待っている。 ・・・なのに。 決着もつけずに、俺は人生最大のピンチを迎える。 俺らしいっちゃらしいのが何とも言えず滑稽だ。 そして何一つ変われないまま訪れる朝。 声は掠れていない。 足はすくんでいない。 手は震えていない。 目の下にちょっとできたクマは・・・ま。許して貰おう。 上出来だ。俺にしちゃ。 よっしゃ、行くか。 その時俺はこの世で一番かっこよくて情けない男。 >>END |
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