『おやつをどうぞ』



「…お腹空いたなぁ。」

 へろへろと力無く隣を飛ぶ赤いマントの少年に、赤いヘルメットの少女が呆れた声を出した。

「一号、お昼食べてこなかったの?」
「食べそびれたんだよ。せっかくミっちゃんがお弁当作ってきてくれたのにさ、コピーの奴が代わりに食べちゃって…。」

 あーあ、ツイてないよなぁとぼやくパトロール中の自覚のあまりない正義の味方の姿にパー子は肩をすくめた。
「相変わらず要領の悪い人ね、一号。」
「うるさいよパー子。…帰ったらママ、おやつ用意してくれているかなぁ。」

 情けないわねぇ、と呟きながらパー子が少し意地悪そうに言う。

「でも一号、おやつも先にコピーが食べちゃっているかもしれないわよ?」
「そうなんだ!今日、ホットケーキだってママが言ってたから狙ってるんだよな、コピーの奴。」

 ああ、あいつロボットの癖に食い意地張りすぎだよ!と憤慨する子供じみた正義の味方の姿にパー子は苦笑を漏らす。

「仕方がないじゃないの。パーマンなんだから。」
「…まぁ、そりゃそうなんだけど。」

 ヘコー、と項垂れる少年に、パー子は暫く何か考えた後慰めの言葉をかけた。

「それでも、パトロールやパーマンの仕事はコピーに押しつけないのね。」
「…代わりに宿題でもやっといてくれればいいのにさ。」

 ミツ夫は照れ臭いのか僅かに方向を逸らした返事を返した。パー子が服のポケットを探る。

「一号。」
「なに?」

 パー子がスカートのポケットから取り出したのは小さな包みだった。
 撮影などで忙しく、食事が不定期になりがちな「星野スミレ」の為に母親が用意してくれた簡単な焼き菓子だった。

「これあげるわ、良かったら食べて。」

 白い布に包まれたマドレーヌにミツ夫が歓声をあげる。

「ウワ、本当かい、パー子?!」
「ええ、私はお昼はちゃんといただいたもの。」
 とはいえロケ用の仕出し弁当ではあるが。
 苦笑するパー子に、恩に着るよ!と叫びながらミツ夫は早速甘い匂いのする包みを開き、中身を口に放り込んだ。

「美味しい!ね、これってもしかしてまさかひょっとして信じられないけどパー子が作ったの?」
「…いちいち言葉が多いのよ。」

 膨れてみせるパー子にごめん、と言いながらミツ夫は何気なしに続けた。

「でも本当に美味しいよパー子。もし君がいいんならまた作ってよ。」

 空腹感が満たされたので上機嫌である。現金な人よね、とパー子は思う。
 本当に、こんな男のどこがそんなに良いんだか。

「…気が向いたら、ね。」

 そして今更母親が焼いたのだとは言えなくなってしまったパー子の方も、素っ気なく言いながらも微かに頬を染めるのだった。

 次までにママにお菓子づくりの特訓をして貰わなくちゃ、と内心冷や汗をかきながらも。




END


拍手創作です。パーマンのみつスミ。スミレちゃん大好きだ!!



 

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