恋はスリル、ショック、サスペンス

 

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「……。」
「嫌だな、そんな不満そうな顔をしなくてもいいじゃないですか?」

 くすくすと少年が笑うと、殺風景な部屋にただ一つだけ置いてある観葉植物のグリーンが一緒に揺らめいた。
 シンクロしているのかと一瞬そちらに気を取られると、どこを見ているんです?と不機嫌な声に追ってこられる。
 そう言うが、元々貴様が持ってきたんじゃないか、とは馬鹿馬鹿しいので口にしなかった。

 代わりに短い質問をする。

「何の用だ。」
「用事がなくちゃ会いに来ちゃいけないんですか?」
「ああ。」
「…言いますね。」
「仕事が忙しいんじゃないのか、『南野秀一』?」
「そちらこそ、躯のガードは楽しそうで。」

 口調は押さえていたが、瞳にぱちんと閃いた火花で気付いてしまった。
 それか、と飛影はため息を付いた。
 要は焼き餅を焼いて嫌味を言いに来ただけなのだ、この喰えない狐は。

「聞いて居るんですか?飛影。」
「…聞かせたかったら。」

 最早相手にする気も失せて、首に巻いた白い布と格闘しながら気怠い声で続ける。

「実力行使にするんだな。…疲れて居るんだ、俺は。」
「俺だって疲れてますよ。」

 ぶつぶつと文句を言いながら、蔵馬が座り込んでいたクッションから立ち上がって近づいてくる。

「…解こうか?」
「やりたいならな。」
 伸びてきた手にあっさり何重にも巻かれた布を任せると、珍しく微かに笑った。

「ホントに思うけど、貴方は隙だらけなの?計算高いの?」
「…貴様みたいな狐野郎に真剣に付き合うのは馬鹿馬鹿しいと悟ったというのが正解だな。」

 飛影の返答を追いかけるように、蔵馬の低い笑い声が響いて。

 ばさり、と布の固まりが床に落ちた。

 

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