『時代』



「青島、具合いはどうだ?」

似合わない花を抱えて病室に入ってきた和久は先客の姿に目を丸めた。

「真下じゃねぇか。何やってんだい、青島と二人で座り込んで。」

「あぁっ、和久さん、聞いて下さいよ!」
何やら顔を寄せ合って密談していた男二人の内、スーツ姿の方が振り向いた。

「ここはパラダイスじゃないんです!」
「…はぁ?」
困惑して青島を見ると、彼はただ首をすくめるばかり。

「分かった、分かったからな、なにがあったのか話してみろや。」

「白衣の天使がいないんです!」

「…」

和久はまた沈黙して青島を見た。青島はオレ悪くないっす、と首を振る。

「看護婦がこねぇのか?青島んとこは。」
「とんでもない!一日何回でも顔出しますよ!オレ、なーんか目つけられてるみたいで…」
この質問には青島が答えた。それはお前が目を離すとすぐに自己プログラムリハビリを始めるからじゃねーのか、と和久は思ったがあえて黙っていた。

「真下、じゃあおめぇは一体何が気にいらねぇんだ?」
すがり付いてえぐえぐ泣き続ける情けない男に嫌嫌ながら問掛けてみる。案の定予感は当たった。

「パンツなんです!」
「何が。」
最近の若い者の言葉には主語というものが抜けている…

「だから!白衣の天使は白いガートルで空き病室で『先生いけません!いや〜ん!』の筈なのに、パンツなんですよー!?信じられますー!?」

「真下、お前AVの見過ぎ。」

青島から呆れ返ったツッコミがはいる。和久などもう言葉もない。

「青島。」
「はい?」
「馬鹿か、こいつは。」
「…多分。」

「あ、青島先輩酷いっすよ!大体、青島先輩の日頃の行動が悪いからホントなら体も保養タマシイも保養のパラダイスの筈なのに、こんな天使も居ない場所…うう。」

「真下…お前オレの見舞いに来たんじゃなかったの?」
「俺は俺のアンジェリークちゃんを探しに来たんです!」
「うわ、お前寒!マジ寒!」

ああ夢のベストプレイス〜、とわめく後輩とお前見舞いじゃないならもう帰れ!と騒ぐ先輩に溜め息をつきながら、指導する気もさらさら無くした指導員は、ここの患者には白衣の天使は居なくてももっと強力な黒衣で眉間に皺の寄った守護天使が着いてるだろうが、とふと廊下で分かれた男の顔を思い出したが、そんなことを言うと怪我人がまた興奮するので青島にその事を告げるのを慎ましく辞退申し上げたのだった。

まさかその事で後で青島に責める様な訴える様な目で睨まれる羽目になるとは想像だにしなかったのだ。


指導員の気苦労は続く。




END


拍手創作です。元ネタ有り。たしか、入院中に携帯で書いた話の筈(笑)



 

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