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【そばにいる:市丸ギン/松本乱菊】



Love is strong as death; jealousy is cruel as the grave.




 向こうから歩いて来たあの女の子の着とる着物、乱菊に似合いそうやなあ、と思うと、つい視線が動いた。

 町中を、揃って歩いていたときの事である。

 全寮制の真央霊術院のたまの休暇、街へ出てもいい、という許可が出たのは本当に久しぶりであった。

 ギンと一緒に回ると強硬に言い放つ乱菊に根負けして(女の子と回れや、という案は即時却下された)、彼女に言われるが侭に街を引っ張り回されている。

 乱菊は上機嫌で支給された小遣いで小物や、駄菓子などを買い込んでいたが、ギンは特に興味を惹かれるものもなく、ただ市中引き回しの刑に処されているような次第であった。

 平日だったが、生徒以外にも、それなりの人出はあった。

 ただでさえ目立つ彼女と二人でということで、同級生達からのやっかみの視線が恐ろしいのに、町中を歩くだけでも、乱菊のくるくるとよく動く黄金の髪の毛も、青くて大きなまん丸い瞳も、擦れ違う人の目を確実に惹き付けて行く。

 穴があったら今直ぐ逃げ込みたい、と冗談抜きで目立つのが嫌いな少年は思っていた。

 そんな気分で歩いていたから、脇見もしていたのだろうと思う。

 件の少女はどこかの大店のお嬢様か貴族の令嬢か、実に見事な友禅の振り袖姿で、一面の菊の花の意匠が目を惹いたのだ。

 無論、彼女の方は真央霊術院の制服姿の少年になど、一瞥もくれる訳が無い。多分、この後一生出会う事すらないだろう。

 それだけ、だったのだが。

「ギンのうわきもの」

 急に、不機嫌な声がしたので、驚いて振り返ろうとした。いつの間にか、足を止めて少女の後ろ姿を見送ってしまっていたらしい。

 乱菊がぷっと頬を膨らませたまま、ぎゅっとギンの背中にしがみつき、まだまだ頼りない細い腰に腕を回して引き止めるように力を込めた 。

「他の女の子のこと、見てたでしょ?……お仕置き」

 背中に頬を当て、回した腕に力を込められて。今更、あれは着物を見ていただけだとも言えず、ギンは言葉を失って立ち尽くしてしまった。

 同級生達の好奇の視線がびしばし突き刺さって来るのが(しかも嫉妬含みの)分かったが、どうすることも出来なかった。

(明日、また教科書破られとんのやろな)

 ホンマ男の嫉妬はかなんわぁ、と内心でため息をつく。が、差し当たって大事なのは明日の教科書より目の前の乱菊のご機嫌だ。

 辛うじて動きの鈍った舌を動かし、ごめん、と呟きはしたのだが。

 謝るのが益々気に入らないとぐりぐりと背中におでこを擦り付けられ、途方に暮れたギンがその後の休暇をどのように過ごす事になったかは、今の所ご機嫌斜めの金髪の少女の言う、お仕置きの出方一つにかかっているのであった。




Love Me Tender




□:院生。ツイッターお題もの。ギンは学校で孤立中。乱菊さんはなんとかしたいの。
  ホグズミードですか、とか言っちゃダメだ(笑)






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