◇The Seasons◇




 まるで憑き物に憑かれたように地球を氷付けにすることに躍起になっていた嘗ての自分の姿でも思い出したのか、やや自嘲するようにシャアが言う。アムロは眉を顰めてくだらない妄想は止せ、と男を止めた。そして、僅かの間躊躇ってから、重い口を開く。

「だって、…あなたは、人類を宇宙へ追い上げるなんて夢からは、もう目を覚ましたんだろう?」

 俺の方を選んでくれたんだろう?と言外に問いかけながら、アムロはどこか探るような視線でシャアの秀麗な顔をじっと見つめた。

「今でも時々、地球が滅びる夢を見て飛び起きることは、あるが」

 アムロの真っ直ぐな視線に耐えきれなくなったのか、渋々シャアが本音を明かす。こんなことはアムロへの背信行為のようにも思えて、疚しくて言い出せなかったのだが、と一度堰を切った言葉は迸るようにそのまま続いた。

「この、青く眠る水の星を、美しいままでいつまでも愛でていたいと思う。勿論、星にだって寿命はあるから、永遠などという言葉は望むべくもないのだろうが、それでも、生きている間に崩壊の足音など、聞きたくはないだろう?この一年、君を道連れとしてこの星を巡って、益々思いを新たにした、この星は…奇跡の星だ」

 存在自体が尊いこの惑星は、人さえ居なければ或いはもっと健やかに育って行くのではないだろうか、終焉の日が遠くなるのではないだろうか、とつい思ってしまうのだよ、というシャアの告白を聞いて、アムロは正直に顔を顰めた。

「そんなことになったら、それこそ地球も滅亡の日だろ」
「何故だね?」

 アムロの意見に、心底不思議そうにシャアが問い返してくる。アムロは、暫く考えてから、だって、人類が滅びちゃうじゃないか、とそう返事をした。しかし、シャアはそれが分からないのだ、と更に眉を顰めながら言う。

「仕方がないことだろう。どうして人類が終わると地球が滅びると、人間はそう考えるのかね?地球のためを思うなら、人類はむしろ地球を諦めるべきだというのに」

 それなのに、諦めきれないのは私も同じか。ほろ苦く呟く金髪の男をじっと眺めていたアムロは、不意に手を伸ばすと男の腕を掴んで自分の方を振り向かせた。突然の行動に驚いたシャアが目をぱちくりさせていると、ぎゅっと掴んだ掌に力が入り、アムロの口唇がつんと尖って不実な恋人を責めるような形を取る。

「シャアの、浮気者」
「なんだって?」
「聞こえなかったか?う、わ、き、も、の、って言ったんだよ」

 言うと、べぇ、と舌を出して、アムロはどんと逆にシャアの胸を突き放した。アムロが離れていったことに怯え、シャアが些か不安そうな声を絞り出して、青年を呼び止める。

「アムロ、待ってくれ、私は決して、そんなつもりでは」
「そんなつもりって、どんなつもりだったのか言ってみなよ」

 切り返してシャアが言葉に詰まるのを楽しみながら、アムロは仕方がないよね、と苦笑した。

「シャアが浮気するのも分からないではないけれどさ、俺じゃいっしょにいても変化もなにもなくてつまらないしさ」

 地球の四季みたいに器用な喜怒哀楽も見せられないし、日ごとに変えられるほどの話題を持っているわけでもない。自分という人間の底の浅さを思い知った様な気がして、アムロは僅かに自嘲した。

「そんなことはない!」

 ところが、ぐっと腕を引いて思いがけなく強く言い返され、アムロは驚いて男の方を見た。シャアは真摯な瞳でアムロを見ている。アムロと視線が合うと、青年の腕を掴む力を強めて、真剣に告げる。







―――――『ノーザンライツ』:雨野とりせ



※この文章はあくまでサンプルです。内容は予告無しに変わることがあります。








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