◇PINK SPIDER◇




「アムロは優しすぎるのよ!」
案の定、彼女はそう食ってかかってきた。

「優しい、かな」
アムロは奇妙な微笑みを浮かべる。

「ええ、優しいわ」
うち消すように、ベルトーチカが言い切った。

 本当に優しい男は君を裏切って他の人間と、ましてや男と寝たりなんかしないと思うけど、
という言葉は、辛うじて喉の奥で堰き止め、それじゃあ後でね、
と言い置いて去っていったベルトーチカの後ろ姿を追いながら、アムロはかりりと爪を囓る。

そうでもしないと、先程の言葉を口走って、何処までも眩しい存在である彼女を傷つけてみたいという衝動に負けてしまいそうだった。
金色の髪の毛は嫌いだ、とアムロは思う。眩しくて、輝かしくて、押しつけがましくて、そして、例えようもなく心を惹かれる。

 自分は、誘蛾灯の周りをひらひら飛び回る羽虫のようだ、とアムロは自らを評した。
蛹にもなれない、蝶になど、決して。

アムロは、彼等のようにはなれない。大陽の周囲を飛べば、イカロスのように蝋で寄せ集めた仮初めの羽根が熔け落ちて墜落するか、焼け焦げて死ぬか、二つに一つだ。ましてや、宇宙など。

 そんな大それたもの、誰が望む?

 今の、こんなにちっぽけで矮小なアムロに。

「誰も期待なんかしや、していないさ。今更、俺なんかに―――‐‐‐‐」

 呟く自嘲の言葉が酷く苦いのは、それさえも後ろめたいと思っているのか。
ぐるりと鋼鉄の貼られた艦内を見回す。自室の天井も壁も、同じくらい無機質だ。
こんなものが空を飛ぶなんて、と今更ながら旧地球世紀の人間すら思わないような感想を抱く。
そっと冷たい壁に身を寄せて目を閉じると、ゴウンゴウンと機械仕掛けの心音が届いた。

空を翔ることは嫌じゃなかった。実際、シャイアンにいた頃も移動には自家用機を使っていた。


シャイアン―――忘れもしない、あの大地の底で。

七年間かけて、ゆっくりゆっくりと、アムロは出口を見失っていったのだから。




相変わらず書いていて楽しいくらいどん底に暗いです、22アムロ。
クワアムですよ、ベルアム(待て、ベルトーチカ攻めでどうする)ではありませんよー、決して。




―――"よだかの星":雨野とりせ








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