◇Order Please◇




 白衣を着た男は、無機質な処置室の中で途方に暮れていた。

「…さて。今夜はどうしてくれるのかな、先生?」

 男の目の前に座る拘束具を身に纏った若い男は、不自由な両手足に顔だけは挑戦的な表情を煌めかせ、金髪の男を愉しそうに見上げる。
椅子に縛り付けられたままの華奢と形容できそうな肢体を見下ろし、男は掠れた声を絞り出した。

「…こんな事が、何時までも続くわけがないんだ。」
「続かなくてもイイさ。…な、早くおいでよ、センセイ?」

 その言葉に、堪らないように男が青年に近づき、噛み付くように口付ける。
うっとりしたように熱く溶けた琥珀の瞳を潤ませ、青年は嬉々としてそれを受け止めた。

「…ん。」
 ああ、あなたのキスって好きだな、すごく。
「続かなくてもいい、か―――君は、私を地獄への道連れにでもするつもりかい?」

「さてね。」
 青年はただケラケラと嗤い続けるだけだ。
「なんでもいいのさ、今がキモチよけりゃ。…な、早く、始めてよ。センセイ。」
 白衣の男は深く深く唇を噛むと、言われるままこわごわと、縛られた青年の身体に腕を伸ばす。
 今更だな、と青年がおかしそうに呟いた。

「なんだよ、オレは別に壊れたりしないぜ?残念ながら消えもしないけど、な。
あなたの指だってイチモツだって噛み切ったりしやしない。…何がそんなに怖いんだ、センセイ。」

 男が、震える声を紡ぎだした。
「君は、自分のやっていることが分かっているのかね?」
 今更何を、と青年が唇を歪める。







―――"Plastic Soul":雨野とりせ







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