◇マタアイマショウ◇




 先頃、アムロは金髪のあの男に想いを告げられた。

 彼はどうやら、ずっとアムロを追い続けているうちに執念がくるりと恋にひっくり返ったらしい。
 それでも暫くは自分自身の変化に些か戸惑っていたようだが、最後には困惑するのにも飽きたようで、それらを、その迷いすらひっくるめて、ありのままアムロにぶつけてきた。
 恋でもしてみないか、と誘いの文句だけは軽やかに。

 正直に言うと、アムロは困った。

 本当に困ってしまうのだ。あれだけ純粋に想いをぶつけられて、嫌だと思えるわけがない。
 人間にとって、他人の好意というのはそれだけで嬉しいものだ。ましてや、余人より人の気持ちに敏感なニュータイプのアムロにとっては尚更だ。

 シャアからの好意は戸惑うほどに居心地が良くて、恐る恐る触れた人柄は、アムロから徐々に警戒心を拭い去っていった。

 結果的に、紆余曲折する事件の中に巻き込まれ、アムロは最後には、『嫌じゃない』という自分の中にあった気持ち一つで男の想いを受け容れてしまった。

 なので、恐らく今、アムロは彼にとっては「恋人」と呼べる存在の筈であった。恐らくは。きっと。たぶん。自信を持って胸を張って言い切れるような事ではないのだが。

 アムロが同性の『恋人』なんて今まで持っていなかったから戸惑っているだけだと思いたいのだ。
 そう、アムロには、正直なところこれからどうして良いかも分からないのだ。いい年をして、女と付き合ったこともない等とは言わないが、男とまともに交際なんて経験は、流石にない。

 しかも、単なる好意以上の恋情含みの同性交際など、マニュアルも持っていないし、一体何処からどんな風に始めればいいのか見当も付かない。
 相手の方は躊躇いなくアムロを選んだように青年からは見えたので、さぞや経験豊富なのだろう、任せておけばいいかと期待したら、蓋を開けてみると男は初めてだとかアムロと同じようなことを言い出したので、こちらもさっぱり頼りにならないことが判明した。

 それじゃあ困るんだよ、とアムロに言われても、男は気にもしていないようであったが。

「いいじゃないか。私達なりに一緒にいればいいのさ。他人など気にすることはないだろう?」
「それは、そうなんだけど」

 思いあまってこれからどうしたらいいんだと当の本人に相談したら、あっさりと模範解答のような返事をされて、何が不安なのか分からないという漠然とした不安を抱えたアムロは、そういうことを聞きたいんじゃないんだよと、こっそりシャアの部屋のクッションに八つ当たりをする羽目になった。

 勢いに流されてしまうだけならばまだ良かったのだが、今のように変に冷静になる時間を与えられてしまうと、これからどうしたらいいのか、などと一通り考え始めては堂々巡りに陥り、恋愛を始めたばかりで、極端な話まだ手も繋いでいないというのに、既にアムロは精神的にへとへとになりつつあった。

 こんなことで本当にこれから先この男と巧くやっていくことができるのかと、不安ばかりが肥大するアムロの日々に、誰も答えなど与えてはくれなかった。










―――――『黄昏サラウンド』:雨野とりせ



※この文章はあくまでサンプルです。内容は予告無しに変わることがあります。








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