◇おかしな2人◇




(だったら、そうなっても、いいやって、思ってた)


 躊躇したのは一瞬で、アムロは躊躇いのない手付きで、一緒に墜落したサザビーの脱出ポッドの扉を文字通りこじ開けた。

「シャアっ!」

 大声で中に向けて叫ぶと、金髪の男はこめかみから血を一筋流し(他の外傷は改めてみないと分からないが、むっとした血の臭いはした)、僅かに頭を動かしてふっと閉ざしていた瞼を開いた。

「ああ、…アムロ」
「よう、悪運は強かったみたいだな、お互い」

 厳しい表情で言うアムロの手には、鈍く光る拳銃が握られていた。それを見たシャアが、改めて撃つかね、と小さく笑う。

「甘ったれんな、殺して欲しがられるのは一回で充分だ」

 もう散々相手はしてやったろう、と苦々しげに吐き捨てるアムロに、シャアがそれでは連邦に引き渡すかね、と呟く。
 アムロは首を振った。

「さぁ、それで貴様のやったことが帳消しになるとも思えないが、罪を償う気があるのなら協力してやるぜ?」
「まぁ、どこまで拷問に耐えられるか分からないがね」
「捕虜の不当な扱いはさせないよ。貴様にだって最低限の人権が与えられる。貴様が守る気も更々見せなかったものだけどな」

 シャアは、未練がましくアムロの手の中の拳銃に視線を向けた。

「望めるのなら、死刑判決は君の手で執行して欲しかったのだが」
「贅沢言うな、…それに、見たところ、俺が特に手を下さなくても、放置したら出血多量で死にそうじゃないか、シャア・アズナブル」

 どうしたい、と言われ、シャアはアムロの怒りに燃える琥珀の瞳を何処かうっとりとしたように見上げながら、穏やかにさえ見える表情で微笑んだ。今更、どうしたいと聞かれても。







―――――『未必のコイ』:雨野とりせ



※この文章はあくまでサンプルです。内容は予告無しに変わることがあります。








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