◇雨のような千回のキス◇




「はぁ?!」
「頼む、この通り」

 赤毛で長身の親友に頭を下げられ、文字通りハリーは開いた口が塞がらなかった。
どこの世界に自分の恋路を邪魔してくれと親友に頼む大馬鹿野郎様一号が居るというのだ。

「嫌だよ、僕はそんな役!」
「ハリー、頼むから…」
「ていうか、なんでハーマイオニーに本当のこと教えないんだよ!」

 些か腹を立てたように黒髪の少年の方もグリーンの瞳を怒りに煌めかせながら叫ぶ。
彼にとってはロンも親友だが、栗色の髪の少女も同じくらい大切な存在であった。
二人が上手くいっていないだけでも切ないのに、更に引っかき回せ、だって?

「納得行かないな。お断りするよ」
「そう言わずに…」

 弱り切ったようにロンが呟いた。その心底困り果てた響きに、基本的にロンに甘いハリーが仕方ないな、と溜息をつく。

「じゃ、なんでなのか説明聞かせてくれよ。得心がいったら、助力してやらないこともないけどさ」
「う……言わなくちゃ、駄目か?」

 赤毛の少年は、勘弁して欲しいようにぼふんと自分のベッドに腰を下ろし、目の前の親友の緑色の双眸を見上げたが。

「駄目」―――今度こそ、絶対零度のハリーの微笑みに場外ホームランに弾き返されてしまった。

 ロンが、諦めたように深々と溜息をつく。

「オーケー。…言わないのはフェアじゃないな。でも、ハリー、頼むから誰にも言うなよ?情けないし……」
「君が情けないのなんか、今更だろ?」
「容赦ないな…」

 くそ、と小さく悪態をつきながら、ロンはハリーに向かい、ぽつりぽつりと『理由』を話し始めた。



 聞き終わった後、ハリーは小声でバカだね君は相変わらず、と言ったが。それでも、ロンの願いを聞き届けることを快諾したのであった






―――"ふりそそぐもの":雨野とりせ







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