ヤドリギ
-A request program for Christmas-

**********




「信じられない」

 ソフィーは買い物から帰ってきてすぐ、部屋の惨状に頭を抱えた。
 たしか、朝自分が家を後にしたときには、こんなことにはなっていなかったと思うが。
 綺麗好きの性分の彼女は、少々腹を立てて元凶と思われる人間の名前を呼ぶ。

「ハウル!ハーウールッ!!あんたちょっと降りてきなさい!」
「言わなくても聞こえてるよ」

 途端、背後に立った人影に、ソフィーはビクッとして振り返った。
 そこでは、金髪の魔法使いがにこにこと邪気のない微笑みを浮かべて佇んでいる。
 一瞬毒気を抜かれかけたが、気を取り直してソフィーが柳眉を吊り上げる。

「ちょっとあなたに聞きたいんですけど」
「なに」
「どうして朝の内は綺麗だったこの家は、こんなに散らかっているの?!何を始めたのよ、今度は!」

 腰に手を当てて怒鳴るソフィーに、怒ると可愛い顔が台無しだよ?と悪びれもせず言いながら、ハウルは周囲を見渡した。

「だって、クリスマスだから」
「はぁ?」

 ソフィーが首を傾げる。ハウルの言っていることは、彼女にはさっぱり分からなかった。

―――まぁ、今回に限らずハウルの言動は基本的にいつでも意味不明だが。

 それなりに酷いことを思いながら、ソフィーは足下に転がる背中に羽根のついた人形を拾い上げる。
「じゃあ、なぜこの家の中に、こんな大きな木を入れる必要があるの?しかも、こんなにゴテゴテ飾り付けて」
「これはクリスマスツリーっていうんだよ。クリスマスだからね」
「説明になっていないわ、ハウル」

 じろりと睨むと、床の上に落ちたきらきらと光るモールを拾い上げ、ソフィーの相変わらず飾り気のない服にかけて嫌がられたりしながら、ハウルが答える。

「僕がね、昔いた国の習俗さ。こうやって樅の木を飾り付けて、偉い人の誕生日を祝うんだ」

 ソフィーが分かったような分からないような顔をしながら、手の中の人形に視線を落とす。

「ふぅん。偉い人って、誰?」
「かみさまだよ」
「神様って、どこの?インガリーの神様じゃ、なさそうね」
「さぁね。僕は異教徒だから分からないな」
「異教徒なのに、お祝いするの?ヘンなの」

 ソフィーが首を傾げると、ハウルは面白そうに笑って繰り返す。

「ヘンだねぇ」

 その後で上機嫌に、クリスマスツリーとやらのてっぺんに魔法で輝く星をくっつけた。
 同時に、木に飾られた他の飾りがちかちかと明るい輝きを灯し始める。

「さて、これで完成」

 と言いながら更に服の袖からなにやら引っ張り出していそいそと飾り付ける。
 案の定、ソフィーはそれはなぁに、と興味深そうに聞いてくる。
 好奇心旺盛だからなぁ、ソフィーは、と可笑しく思いながら、ハウルは言った。

「これは、ヤドリギ」
「へぇ、見たこともない木だわ。これもあなたの故郷から持ってきたの?」
「ああ」
「ふぅん。何か意味があるの?」

 途端、ハウルがにっこりと極上の微笑みを浮かべてソフィーを振り返る。

「教えて欲しい?」
「え、ええ」

 ハウルの勢いに押され、ソフィーはついうっかり頷いてしまった。

 じゃあ教えてあげる、と手招きされたソフィーが、ハウルの左頬に見事な赤い手形を残すのは、実に三分後の出来事である。






**********

+++END

 

 

拍手創作の再録。2004年クリスマス企画より。
まぁ、ひっぱたかれて妥当なところ。つか、スキンシップ好きね、ハウル。

 

+++ back +++