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ソフィーがいつもの如く散らかったハウルの部屋の片付けをしていると、(全く、毎日掃除をかかさないというのに、ハウルったらどうしてこんなに片付ける後から散らかしていってくれるのかしら!)積み上がった埃まみれのがらくたの中から、何枚もの黒くて薄い円盤が出てきた。
「…何かしら、これ」
ソフィーには読みとれない言語で何か書いてある中央のラベルを見ながら、ソフィーが表面の埃を払おうと、ふぅっと息を吹きかける。
「ふきんで拭いた方がいいのかしらね?」
言いながら首を傾げると、横合いからひょいと優美な指先が伸びてきて、ソフィーの手からその黒い円盤を取り上げた。
誰の手かは分かっていたので、ソフィーが名前を呼びながら振り返る。
「ハウル」
「君は、相変わらず素敵なものを発掘してくる天才だね、ソフィー」
にっこりと微笑んだ今日は黒髪の青年は、懐かしそうな視線で手の中のものを見下ろした。
なので、好奇心に駆られたソフィーがそれはなんなの、と尋ねる。
「レコードだよ」
「レコード?」
「記録しておくもの。音とか、声とか、歌とか―――」
言いながら、ハウルがパチンと指を鳴らすと、大きなラッパか百合の花のような金管の付いた機械が手近な机の上に姿を現す。
青年が何をしているのか分からなくて、ソフィーは名前を呼んだ。
「ええと、…ハウル?」
「ソフィー、ダンスは踊れる?」
「踊った事なんてない…きゃあ!」
「じゃ、教えてあげる」
にこにこと微笑みながらやや強引にソフィーの手を取って引き寄せ、ハウルがレコードをセットする。
すぐに、僅かに雑音混じりの軽快な音楽が流れ始めた。
「長いこと放って置いたから、埃が混じっちゃったかな」
気にする風でもなくハウルが言いながら、ソフィーの手を取って家の木張りのリビングの中央へ導く。
「さ、踊ろうか」
「え、ちょっと、ハウルっ!もうっ!」
「嫌い?」
「好きか嫌いかじゃなくて、…」
「じゃあ、踊ろう」
ソフィーと踊りたいんだ、と甘えるように言うと上機嫌でステップを教え、ひらりひらりと上手に彼女を踊らせる手慣れた感じの青年に、怒るのも忘れたソフィーが苦笑する。
「わたし、掃除の途中だったのよ?」
「僕と一曲踊ってから続きをしても、いいじゃない?」
楽しそうな二人に、マルクルが次は僕!とソフィーの相手に名乗りをあげる。
ソフィーの方は良いわよ、と軽く微笑んだのだが、その肩を素早くハウルが先に抱き寄せた。
「君とのダンスの相手は譲らないよ、例え誰が出てきてもね」
「もう、ハウルっ!!」
結局、この日はハウルの部屋は掃除にならなかったようである。
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