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That list our Love, and deck our bowers?
Adorn yon world afar, afar?
The wandering star.
....Edgar Allan Poe
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さぁ、魔法の時間を始めよう。
「全く、何度言ったら分かるんだか。こんなに散らかして…魔法の道具や材料だってあるでしょうに。」
赤毛の少女のぼやきに、昼寝を始めようとしていた金髪の魔法使いが薄く目を開けて軽い溜息をついた。
「だったら触らずにそのまんまにしておいてくれても僕としては全然構わないのだけれどもね、ソフィー。」
「は?馬鹿なこといいなさんな、よ。」
ぱたぱたとはたきをかけながら赤毛の少女は横目で金髪の青年を睨む。最後に青年の青と銀の派手な服を一瞥して、また溜息。流石に青年がムッとした表情になる。
「…ソフィー、随分と僕に何か言いたいことがあるようだけど。」
「あら、そう?あたしは特に何も言いたくなんてないけど。」
「……。」
険悪な表情で睨んでくるハウルを気にも留めず、ソフィーは部屋の掃除を続行した。ぶうぶうと文句を言うカルシファーを住居から追い出して暖炉の煤払いをし、マイケルの弄っている怪しげな薬品棚の薬瓶を整頓し、部屋の主のどこから手を付けて良いやら分かりもしない寝室に掛かろうとしたとき、背後から肩を叩かれて振り返る。
目の前には、緑の瞳に真剣な色を湛えたハウルが立っていた。
思わず、無意識に声が上擦る。
「な、なによ。止めたって掃除はしますからね。」
「ソフィー、聞いて欲しい事がある。」
ハウルが囁くように言いながら僅かに上体を傾ける。耳を、と言われて、呪文を唱えるあの声でそんな風に言うのは反則だ、と心底腹立たしく思った。耳元で耳打ちさえするような近さまでハウルが口元を近づける。
「あのさ、ソフィー。」
「なぁに?」
言った瞬間、軽く耳に柔らかいものが触れて、それが何かと一瞬分からずに目をぱちくりしたソフィーだったが、その後直ぐ認識してつま先から頭のてっぺんまで茹で蛸みたいに赤くなるより先に、とどめとばかりに軽くぺろりと何か濡れたものが耳たぶを掠める。
今度こそ、悲鳴という名前の絶叫が上がった。
「きゃー?!ちょっと、なにするのよハウルッッ!!!!!!!!」
「ん、味見。」
「な、ななな、なんの?!」
「内緒。」
にっこりと笑って意味深な台詞を残しご馳走様と言いながらそそくさとドアの取っ手をかちりと回して去ってゆく大魔法使いを見送って。
「……もう、ほんとにもうっ!!!」
怒る元気も追い掛ける元気もなく床にへたりこむ羽目になってしまったソフィーだった。
ハウルの真意がキスにあったのか掃除を止めることにあったのかは、彼だけが知っている真実である。
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end.
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