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遠い昔の話で新しいこの星が
いま生れてぼくらの胸
清く照らしているよ
それはぼくらの心に新しい地平線を
サァめざせと教えながら
強く輝いてるよ
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自分たちの師匠は全ての陽を具現した存在なのだという。
そんな人間てのもいるんだねぇ、と山の下から助け出された悟空は感心した。
人生、いや猿生の酸いも辛いも苦いも甘いも噛み分け、トドメに五百年もの間五行山の下で錬成され続け、俺は金丹じゃねぇぞと流石にぼやきたくなる猿である。
陰の気をひとつも持っていない曇りなき穢れなき我らが三蔵法師様々。
見ていて眩しくなるくらいだ。悟浄の奴なんか直ぐ鬱屈するが、ちょっと分けて貰えばいいのだ、あの明るさを。
師匠には陰がない。インの気が無いということはしかしつまり陰の気のカタマリである妖怪や妖精達にはそりゃぁ狙われて当然だ。
また、師匠はその陽の精を漏らしたこともない。、またそれが西天取経の必須条件でもあった。
三蔵を修めてしかも生娘…おっと違った、生男…なんか違う気もするが。
兎に角女体に触れたことはおろか夢ですらも精とやらをお漏らしになったことのない純粋な男性様。
そんな希有な条件に当てはまる人間が例えこの広い大唐といえど何人居ると…いや。
悟空は苦笑する。
そもそも「この」三蔵でなければならなかったのだ。
本当の名前は陳玄奘とかなんとかいうらしいが、悟空達は「お師匠」としか呼ばず、神様仏様達や妖怪達は「三蔵」と号でしか呼ばない。
つまりはそういう類の存在様だと言うことだ。
そんなことを思いながらこのクソ熱い砂漠の空の下でも観音様から頂いた有り難い袈裟とやらを脱ぎもしない生真面目な師匠を眺める。
師匠にはいつだって曇りなんて無い。それこそこの砂漠の空のようにカラッカラの快晴というやつだ。
太陽だけが輝いているような。
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その三蔵が少し微笑んで自分を呼んだ。
「悟空。」
このお師匠は世の中の陰の部分を知らない。
まるで子供のように真っ直ぐで純真で、そこが悟空をして最も苛々もさせるのだが。
八戒は呆れるし、悟浄は理屈を付けながら変に心酔しているが。
悟空はそんなことを頭の中で片付けながら、登っていた岩山を頭を掻きながら降りた。
「なんですか、お師匠。」
「今夜は向こうに見える岩場で休もうと思うのだが、どう思う?」
どう思うって、貴方はいつだって自分の思い通りにするんでしょうがと呆れつつも生真面目な旅の同行者はきちんと答えを返すのみ。
「どうって…お師匠、この砂漠は早く抜けないと、昨日の集落で蠍の化け物が出るって聞いたばかりじゃないですか。」
「しかし…馬も休ませてやらなくては可哀相だし。」
可哀相って。
そいつ西海竜王の息子で白竜三太子って名前で水が欲しけりゃ自分で雨師風伯くらい呼びますがな、と溜息をつきつつ白馬にきっちり視線で怠けるんじゃないぞと牽制をしつつ。
―――たく、休みたいのは貴方でしょうが。素直じゃない。
というか負の感情を持てないように出来ているらしいので全て別の正の感情に置き換わっているらしいと最近気付いたのだが。
陰陽が和合して出来ているのが人間なら、この人はそもそも生まれながらにカタワモノなのだ。…可哀相に。
女房役にと派遣されたと最近自覚してきた悟空はそして今日も全ての責を自分が引き被るつもりで微笑むのだった。
「分かりました。でも何があってもしりませんからね、お師匠。」
三蔵はそれは綺麗に微笑んでくれた。悟空がいれば大丈夫、と言葉にしないでも伝わるくらい。
ああ、全く、と悟空は苦笑する。
山の下にいる方がずっと楽だった筈なんだが。
なんだってこんなに辛抱強く斉天大聖ともあろうものがこんな所で坊主にへいこらしているんだか。
考えながら、悟空は強い日差しに赤目をしぱしぱさせ、頭に填められた金錮をちょいと撫でた。
それだけで全部全部ぜんぜんたいしたことじゃないように思えた。
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Holy, holy and bright
A star is shining so holy and bright
Holy, holy and bright
Never let it go out of your sight
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end.
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